今から10年以上前、90年代初めのころ
トヨタのハイラックスだったナバホのお父さんのトラックが、
シボレーのC1500に代わった。
ナバホのお父さんは特に車に拘る人じゃない、
トヨタの燃費の良さに心酔していたし、
今でも日本車が一番いいと思ってる。
ハイラックスとC1500は車格が違うから
比べるものじゃない。
排気量とパワー、燃費を考えると
ラックスとC1500とではそれほど違わないんじゃないか?
日本車は実際以上に燃費がいいイメージがあるような気がする。
それでも、それはそれ、
アメリカ製のピックアップトラックに代えて
お父さんもうれしそうだった。
ピックアップといえばアメリカの車文化を代弁するような車だ。
それが国産になったということはステータスを意味する。
ところが、そこはアメリカ、
家族中のメンバーが気の無い荒い扱いをする。
チップスを食い散らかし、ソーダを溢すなんてのは序の口
パワーウィンドウのスイッチはいかれて、
窓の開閉は運に頼るしかない。
ドアの開閉レバーを引きちぎられ、
内側からしか開かないドアと外側からしか開かないドアの
コンビネーション。左から乗ったら右から降りるしかない。
サイドブレーキの解除レバーも壊されて・・・
ほんの5年後には見るも無残な車のできあがりだ。
ぶつけた傷などは少なかったが、塗装はやれて
近寄って見て、更に乗るとその凄さが身にしみる。
でも、そんな車珍しいもんでもないのもアメリカだ。
ある日、家族の移動の都合で
そのC1500を預かって、砂漠の家から町にある家まで運んだ。
その時にそのC1500のやれ具合を思い知った。
何も聞かずに預かったから、どこがどうなってるか
細かいところまでは知らなかったんだ。
まず、ドアから気が付くね。次にウインドウ。
砂漠を抜けてハイウェイに出るから窓を閉めようと、
何度スイッチを押しても、
動いたり動かなかったり、上がったり下がったりで
ちょうどいいところで止まってくれない。
窓が閉まってくれないから、うるさくてスピードを出す気になれない。
のんびり町までクルーズすることにした。
町に入るころにはすっかり日も暮れて、
Tokaheと僕は何か簡単に食おうとファーストフードを探した。
ちょうどサブウェイがあったから店の前の広い駐車場に
車を入れて、ペダル式のサイドブレーキを踏んだ時、
いやな予感がした。
解除レバーが壊れてたらどうしよう・・・。
よくあることなんだ。
ダッシュの左下を手探りでレバーを探す。
ない、やっぱりない。あるべき場所はある。
でもそこにはレバーがあったはずの空間があるだけで
何もない。
慌ててルームランプを点けようとしても、それも切れてる。
窓からドアを開けて降りて、外の明かりを入れると
小さなCリングでかすかに残るレバーのシャフトの先端、
少しホッとして、腰につけたツールナイフのペンチを出して
つまんで引いてみた。
難なく解除、よかった。
そのままサブウェイに入ってお決まりのサンドイッチを注文、
家に帰ろうと外に出ると今度は
店の入り口の目の前に停めたはずのC1500がない!?
視線をあたりにずらすと、
15メートルほど後ろの駐車枠の中にきれいに納まってる。
サイドブレーキのレバーがないことに気をとられて
マニュアルシフトのギアをLowに入れず、
サイドブレーキも解除したままで車を離れて、
後ろに転がったらしい。
一瞬隣にあったBMWにぶつかって止まってるように見えて
また青くなるところだったけど、
近寄るにつれ、接触する位置にないことが見えてくる。
その代わり今度は、後退したC1500の後ろに車があるのが見えてくる。
そこには見るも無残に原型をとどめないほどボディにへこみをつけて
塗装が剥がれたシビックらしき車があった・・・。
「俺がやったみてぇじゃねえかっ!?」
笑えたね。
たしかにくっついて止まってたけどね、
傾斜も見えない駐車場でずれただけ傷もつかないだろう。
あたりに人はいないし
僕らは、さも当然そこに停めた車に戻った顔で
シラッとその場を離れた。
たしか99年頃の話。