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still remain the same / NATIVE SPIRIT (R)

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ツールフォーリザベーションライフ

the tools for the reservation life
リザベーションを生きるためのツール / ダスティの話

「なぁ、時間あるか?
俺を家まで乗せてって欲しいんだ」
たしか2003年、夏
一人でパインリッジに滞在中
仕事の合間に充分な時間があって、
ラコタのグランドマザーの家を訪ねていたときのことだ。
久しぶりに再会したチャーリーがいつものように
何かをねだるような口調から切り出した。
それもちょっと諦めが入った甘えるような言い方。
深刻に助けを求めている風でもある。
但し、チャーリーが助けを求めるのはいつものことだ。
「ああ、いいよ」
そしてお決まりの
必要なものリストと、しなきゃいけないことリストを
語ったあとに、「$20くれないか?」
hey,hey you, bad ass
このときはまだこちらもそれほど深刻な問題と思ってなかった。

とにかく家に送っていくだけだった。
グランドマザーの家から、パインリッジの中心部の
チャーリーの家まで、40分のドライブ。
家に着くと、
そのrideを必要とした原因の
買ったばかりですぐ動かなくなった中古車、が停まってた。

これか・・・
俺たちは男だから
まずフードを開けないと話は始まらないな。
ところがフードを開けてもそれは
当時そう古くない90年代後半のシボレー・モンテカルロ
大きなエアクリーナがエンジンを覆っていることに圧倒される。
とりあえず、見ただけでわかるものじゃないけど、
バッテリーか、スターターリレーか
そのあたりの軽い電装系の不良なんじゃないかなと想像した。
特にメカに強いわけでもないけど、俺は男、だから・・・。
チャーリーは・・・何にもわからないらしい。
まず、バッテリーを充電しに行って、誰かに借りるかして、
電気を通してみないことには始まらない。
「工具持って来よう」言ったのは僕。
「ないよ」
「・・・ないのか? なんにも?」
「ない」
そうか・・・ないものどうこう言っても仕方ない、
いじり始めたら車載工具ではもどかしくなるだろうし・・・。
「誰か近くの友達は?」
「ダスティなら工具持ってる、すぐそこだから借りに行こう」
ダスティ(埃野郎)だって?、またやばそうな名前が出てきたな。

ほんの200メートルほどか、ダスティの家は並びにあった。
入り口のゲートあたりの庭には朽ちた車が数台、
壊れた冷蔵庫が倒れてたり、ゴミが散乱してる。
様子のおかしい大きな犬が2頭走り回り、
そのわりにいかした、いかにも70年代風、いや風じゃなくて
まさにそのころ作られただろうワーゲンのエンジンの
トライク(三輪オートバイ)が置いてあった。
けど、こいつもタイヤがつぶれて傾いてる。
ここに、工具があるのか? とも思ったけど、
そんなものたちがあるんだからあるんだろう。

見慣れない車が入ってきたのを見て
家から出てきたダスティにチャーリーが僕を紹介する。
ダンガリーの袖を切り落とした染みだらけのカットオフ
痩せて無精髭が浮いた顔はまさにダスティという名前にふさわしい。
トライクを観察してた僕に
「クールだろ? 乗ってみるか?」
そうか、これでも動くのか。
「乗りたいね」
「ちょっと待ってくれ、今、タイヤに空気入れるから」
おー、それだけで動かせるのか。
ダスティはそこで朽ちたかのようなコンプレッサーを
野ざらしのコンセントに繋いでホースをタイヤに挿した。
このコンプレッサーも・・・動いてる。
「これでよし、明日には乗れる」
「!?・・・・・・・・・・・」 なんで明日?
空気入るのにそんなにかかるわけが・・・・あるかもしれない。
コンプレッサーから元気のいい空気が出る音、
動いてるけど、漏れてるよ。
「それにリアブレーキのリンクが外れてるから、これも繋がないとな」
あ、そう、そうだね、外れてる、それじゃ停まれない。

「工具がいるのか? ちょうどいい、俺も使いたいし
○○に貸りに行こう、やつはワイトクレイにいるはずだ」
ダスティも持ってないのか・・・。
しかも、ワイトクレイって所がまたやばい、痛々しい土地なんだ。
そこはリザベーションとの境目、ネブラスカとの州境でもある。
しかもパインリッジから歩いても行けなくはない距離。
つまり法律の境目でもあって、
そこには待ち構えるように酒を売る店があって、
アルコールで壊れたインディアンが道沿いをうろついてる。
ワイトクレイに行けば会えるやつから
本当に工具が借りられるのか?
僕らは車に乗ってそこに行った、あたりを見回して相手を探すと
ちょうど道の反対側にいた。
車をUターンさせて、横付けにする。
ダスティが呼び止め、工具を貸して欲しいというと
「えーと、ありゃあたしか・・○○が持ってったまま返ってこない」
・・・やっぱりな。

僕らはダスティの家に戻ってひとしきり世間話をしたあと、
チャーリーの家に戻った。
チャーリーはその車を売ったあてにならない車屋の
あてにならないサービスを待つことにした。
僕は仕事に出かけて3日後に戻ると伝えてパインリッジを出た。

仕事の後パインリッジに戻る前にどうしても街に出たかった。
量販店で売ってる工具セットなら安くて、内容も充分揃ってる。
こんなに喜ばれるプレゼントはないはずだ。
実際行ってみて驚くほど安いセットがあるもんだ。
160ピースだかで20ドル、ケースにカッチリ収まってる。
モノはともかく、これならチャーリーにはもちろん
ダスティにもプレゼントできる。

チャーリーの家に戻って、それを渡すと
子供のように目を輝かせて喜んでくれた。
「ダスティにもあるんだ、持って行こう」
ダスティも子供のように心からの満面の笑みで喜んでくれた。
「こんなに入ってるけど、すごく安かったんだ
だから信用しちゃいけない、大事な部品には注意するか、
使わないほうがいいかも知れない。ないよりましってことでね」
「こんなカッコイイセット初めてだぜ、大事に使うよ」
そう言ってくれたけど、いつまでセットがもつかどうか?
誰かが持ち出したりして、すぐに不揃いになるだろう。
いずれにせよそんなことはどうでもよくて
僕はこの日素晴らしい笑顔をふたつも見ることができた。

トライクのタイヤはまた潰れて元にもどってた。
「トライク乗るのはまた今度」と言ったまま、
チャーリーがパインリッジから引っ越したせいもあって
ダスティには会えていない。
ツールフォーリザベーションライフ_f0072997_10245182.jpg

(画像のトライクはダスティとは無関係。スタージスにて)
by cwdye | 2007-11-16 10:25 | episode エピソード
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