前回までのお話
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you bad ass, bro.you bad ass, bro. イントロ
翌朝、ボビー兄さんたちは子供の検診の予約があって
都会に出なきゃならなかった。
代わりに僕らがチャーリーの釈放を求めに
デッドウッドのコートハウス(裁判所)に向かった。
向かったといっても確かな場所を知ってるわけじゃない、
山間部でなんとか聞き取った携帯での案内に
聞き取れた大まかなストリート名をたよりに探そうとしていた。
かつてゴールドラッシュの時代にならず者で栄えた町は
メインになる大きな通りが一つだけの小さな町だ。
すぐに探しだせると思ってたのに
地味な建物で通りすぎているのか見当たらない。
周辺の地図を得ようとインフォメーションセンターに寄ると
なんと丁度その時その扉からチャーリーが出てきた。
「ジャッジが昨日から何時間入った?って聞くから、
16時間って答えたら、出ていいって言われたんだ」
その後で行くあてもなくうろついていた所に
僕らが到着したわけだ。
こんなときにもめぐり合わせは繋がってる。
チャーリーの巨体に合わせて車の助手席を開けるけど
2メートル近い彼に合う車はそうはない。
「何か食いにいくか?」
「いや、朝(拘置所で)出たシリアル食ってもたれてるんだ」
「じゃあ、とにかくキャンプに戻ろう」
16人が留置された冷たい部屋で
巨体はタンクトップ姿で渡されたのは薄いブランケットだけ、
狭いベンチ、硬い床、さぞ辛かっただろう。
何故つかまったのか聞くと、
甥っ子が運転する車の中で缶ビールを開けたから。
スタージスの真っ只中は町中で逮捕者を見かける。
運転者でなくても乗車中に缶を開けるだけでも逮捕、拘束。
微罪ではあるから、一晩で釈放されたわけだけど、
まだ問題があった。
チャーリーは一昨年起訴されて、去年は服役
仮釈で出てきてる身だったんだ。
当然、保護観察中なわけで、
判事は彼の犯罪歴も保護監察官の名前もわかってた。
最悪、たった一缶のビールで刑務所に逆戻りって可能性もある。
そんな話をしながら、「ジェイルに戻りたくねえよ」
搾るように呟いた言葉が耳に残る。
チャーリーの案内でダスティと会った2003年の夏から、
チャーリーがリザベーションでの飲酒で逮捕される
2004年の夏までの1年の間、チャーリーには
普段にも増してトラブル続きだった。
僕がダスティに会って、パインリッジを後にした数ヵ月後
チャーリーの娘、つまりヴィヴィの母親が逮捕、起訴、収監された。
同じ家にいたチャーリーにも容疑はかかり、
そのせいで警察はチャーリーもマークしてたわけだ。
当然チャーリーの奥さんにも、容疑は一家にかかっていた。
そのほんの数ヵ月後の春、チャーリーはその奥さんを亡くした。
病気が発覚してほんの数ヶ月、あっという間に逝ってしまった。
静かで強いラコタ・ウーマンという言葉がぴったりの
フルブラッドでかっこいい奥さんだった。
70年代半ば、チャーリーと彼女はレバノンで出会った。
活動家として激しく動いていたことが覗える。
パインリッジを後にする僕に家族への土産として
干したバファローベリーを古いクッキーの缶に入れてくれた
トラディショナルな贈り物も彼女の強烈な印象になった。
恐妻家だったチャーリーもさすがにこたえてた。
度重なるトラブルと不幸に疲れ果てていた。
僕はここで笑い話のように書いてはいるけど、
「深刻に助けを求めている風」にっていうのは
実は本当にいつもそうで
それがリザベーションライフ、リザベーションではよくあること。
それでもチャーリーは笑っているし、だから僕も笑ってこられた。
あまりに重なる不運に悲しみと途方に暮れる間も与えられず
その時点では証拠不十分で起訴猶予中だったチャーリーも
その後、容疑を固められ入れられてしまった。
仮釈放で出て、先に出てた娘の心配と世話に追われていた今年2007年
リザベーションを出て街で暮らしてた息子がギャングに殺された。
「そんなことってあるかよ、いったいどうしたらいいんだ?」
チャーリーに会うたびに、会えただけで笑っていた僕も
このときにはもう絶句した。
心身ともに疲れ果てて消沈しきったチャーリーはテントにこもった。
「ダイ、本当に感謝してるよ」とボビーがいつもと違う口調で
チャーリーを引き受けに行った僕らに礼を言った。
「家族なら当然、喜んでするよ」
ほんのわずかでも力になれたことが嬉しかった。
それにボビーのその言葉そのものが
正反対の弟のチャーリーを思う愛情だと感じた。
ボビーは強い。
その後にも僕らとボビーの家族は時間を合わせて
夜のスタージスへ出かけた。
チャーリーはキャンプで休み続けていて、出てこなかった。
最初に書き始めた
you bad ass, bro.は
滞在中、チャーリーの身元を引き受ける前日に書いた。
翌日、こういう状況が判って、
いったい続きをどうするか考え込んでいたんだ。
普段のアルコールの問題もリザベーションによくある話、
チャーリーのように更に問題が重なるのも、
リザベーションでは珍しくないことだから
これは知らせるべきことだと思って敢えて書き続けることにした。
身から出た錆びと言われるだろう。
アメリカは自由の国だから、努力しないのが悪いと言う。
確かに努力してしっかりしてるインディアンもいる。
ただ
普通に生活するのに必要な努力が
並大抵の努力じゃ足りないのがリザベーション。
機会均等が実現してるならましだろうが、
アメリカの言う自由は投げやりで横暴なことらしい。
格差社会という言葉が出てきて最近似てきてる日本も
こんな人権後進国のアメリカの二の舞を踏まないように、
どこの国にいても僕らはまず自覚して生きていなきゃならない。
当然プライバシーのため実名は伏せている。つづく
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