朝食を済ませてから
午前中にオーダーをかけたい相手がいる。
一昨日に準備した仕事を確かめると、
心もとなくなって慌ててもう一度洗いなおして
ランダーブルーも追加することにした。
その午前中の仕事を終えて昼食を済ませてから
別の友達、取引相手のジョージを訪ねた。
彼とはここしばらく取引がなかった。
今日も挨拶だけになってしまうかと思うと
子供達もよくなついていて
家族ぐるみで世話になってる僕としては心苦しい。
何かこれはというものを持っていてくれればいいけど
ここ数年、彼は何も持っていなかった。
この数年の間に幾度か騙されたり、
トラブルが続いてるようだった。
訪ねていくとまず奥様にご対面、
夏以来の再会のハグを交わし、
去年の夏、もう一度戻ってくると言ったきり
あまりのスケジュールのきつさに
そのまま戻らずにその地域を去ったことを詫びる。
「ジョージは奥にいるわ」
奥に行って挨拶して単刀直入に聞いてみる。
「何か持ってる? ビズビーでもあれば」
「もちろん持ってるよ」
見慣れたライカー(石を入れてる箱)を持って来た。
彼らディーラー達が胸を張ってビズビーや
他の宝石ターコイズを見せてくれたのは
もう10年も昔のこと。
今はもう僕もほぼ選びつくしていて
欲しいものをもっているとは見込めない。
そうなってから6年は経ってるんだ。
新たに誰かに古いコレクションをご開帳頂けるか、
誰かが莫大なコストをかけて掘り当てるという
大博打に打って出ない限り、
再びその見慣れた古いライカーが
クラシカル・ルックのハイグレードの宝石ターコイズで
賑やかになることはない。
見込めないかな、と思いきや
最近は僕も考えが柔軟になってきてる。
前は使えなかった形の石でも今は使い道が思い当たる。
残り物しかない見慣れた内容のライカーでも
重箱の隅をつつくように物色していくつかピックアップできた。
「随分小さいの選ぶんだな、ほれピンセット」
(いいのは小さいのしか残ってないからね)
「こういう石でね、ピアスをお願いしたいんだよ」
マッチの頭ほどの細かい石だ。
「アーティストが泣くな」彼が笑う。
「そうそう、僕が泣くのはやだからね
だからお願いするんだよ」
地金のコストも3倍に上がってるから相当に前とは違う価格だ。
でもそれは僕が作っても同じこと。
大笑いしながら石の選別を続けていたら、
「そういえばローンマウンテンのすごいのがあるけど見る?」
(早く言ってくれよ)
「当然」
「先に言わなきゃならないけど高いよ」
「限度はあると思うけどわかってる」
ビズビーの選別と計量を終えてサブトータルを見る。
たしかに既にきつい・・・。
ここに来ても何も無くて金は使わないだろうと思ってたし。
なのに、これからローンマウンテンを見るのか。
オールドというからには相当なものかも知れない
だとすれば絶対に欲しくなる。
汚れたビニールの小さい袋から
テーブルに出して、見て、息を呑む
「確かに・・・文句ない、
オールドに相応しいクラシック・ルックだね」
高いんだろうな、と思ってると、
「今時この手のローンマウンテンがあれば末端で10万にはなる」
確かにそういう価格も出てきてる・・・。
「これで儲けて、ダイがまたうちでお金を使ってくれることを
考えれば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ここにある全部まとめて買取ならxyz万円でどう?」
「買った!!」
後先考えずに口が先に返事してた。
もちろん、まとめてとは言っても安売りじゃない、
常識を超えても想定内だっただけで今時は御の字なんだ。
最近はワイルドな価格やクレイジーな価格やマッドな価格に
思わず「
WHAT !?」を連発するのが普通になってたからね。
だけど先に「買った」って口が言いたかっただけで
買うって言っちゃってどうすんだ? すぐに頭を抱えた。
でも、そこは友達、これみよがしに頭を抱える僕を見て
支払いは分けて一部先延ばしにしてくれた。
ま、払う額に代わりはないんだけど。
「この中のいくつかを使って
かみさんにブレスレットとイヤリングとペンダントを
プレゼントするはずだったんだ、売ったって言うのが辛いな」
「本当にいいのか?」
「ダイがこれで稼いで戻って、また何か買ってくれれば、
ダイに投資すると思えば納得はしてくれるだろう」
「勿論、また何かしら世話になるさ、ありがとう。
彼女には代わりにトカへから預かったうちの娘達のカードをあげるよ・・・」
さて支払いの手続きをしていると、奥さんがきた。
家族同然に愛してくれてるうちの娘達からの
ニューイヤーカードを渡して大喜びして頂いたあと、
「で、今日はいいもの見つけられた?」
「そりゃもうすごいものをね」
(どうするジョージ)
「そりゃ、いいよな、あのローンマウンテンだもん」
(後でばれるより、僕がいるときに自己申告で許しを乞うか)
「Oh, my god・・・・」奥さんの顔色が変わった。
(あ、だめみたいだよ)
「そりゃ私もダイは好きよ、でもあれを手放すっていうのは
どういうこと? ちょっと失礼して、奥で話しましょう」
「Ah,oh・・・この場にいたくねえよ」
彼女の小言が聞こえてくる、
しばらく彼のコレクションを見るフリをして時間を潰したら
奥さんと左目を押さえたジョージが戻って来た。
「紫になってない?」
(ジョージはギャグかます)
その後、奥方にもとくとくと
そのローンマウンテンで特別なものを作って
利益を上げるように諭された。
「もちろんそうする、また買いに来る約束するよ」
普通の取引相手以上に
家族ごといつも世話になってるんだ
そのローンマウンテンで何か僕からプレゼントしようかな。
僕のテイストは求められるものではないと思うけど。