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still remain the same / NATIVE SPIRIT (R)

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今日の定食

他愛ない思い出話だ。

Today's Special(pt1)

1989年、4月だったと思う。
バックパックに寝袋を縛り付けて夜行バスに乗り込み
初めて流れ着いたアリゾナの小さな町。
後に兄弟になるナバホとは知り合いつつも
まだ、その先どうなるか、どうしていいかもわからず
毎日、周辺をうろついていたころ
中国人が経営するチャイニーズのカフェに入り浸った。
数年前に店を閉じたホンコン・カフェっていう店だ。

かなり古く、内装は1960年代に手を入れたのが最後と思えた。
壁の色はくすんで、ソファのスプリングはいかれて
ビニールが敗れ、テーブルも傾いたりしてた。
いつごろまでか、90年代前半までは
シングル版レコードのジューク・ボックスも稼動してて
70年代当時のヒット曲が入ったまま、
イーグルスのテイクイットイージーをかけて悦に入った。

ブレックファスト、ランチ、ディナー、毎日必ず1回以上はそこにいた。
ディナーは決まってトゥデイズ・スペシャル今日の定食だ。
チャイニーズの数品が一皿にコンビネーション、コーヒー付きで
当時3ドル49セント
コーヒーが単品で49セントだった頃だ。

なんだかはっきりしない味で
決して不味いわけじゃないんだけど、
すごく旨いわけでもない。
その味にはなんとなく郷愁があって
忘れられなくなって
以来、毎年、滞在中は必ずそこで食べるようになった。

初めて流れ着いたころ
2週間もすると町中に友達ができた。
仕事が終わる時間になると
他の古いバーのポーチに友達がたまってたりして
通りかかると声がかかった。
「ダイ! どこ行ってたんだ」
「ホンコンカフェで飯食ってきた」
「まーたあそこで食ってたのか!?
おまえ知ってるか? あそこはな、
中国人が中華作るの飽きてアメリカン作って、
中華作ってるのはナバホなんだぜ!」
と言って大笑い。

ある時、その町のあるモテルに泊まったときには
「このあたりでいい食事ができるところ知ってる?」
と聞かれて、一応周辺は知ってたけど
どこがいいか聞いてみたら
「ホンコン・カフェ、あそこはベストだ」
僕は好きで毎日行ってたけどベストじゃないだろう?
これも笑えた。

古くて普通に時代とともにやれたホンコン・カフェ
そのうちに町は再開発が入り、
年を経て訪ねる度に
知り合いも他の古い店も消えていった。
初めて行ったころは
朝食や昼食時にもなれば
インディアンとカウボーイが席を埋めたホンコン・カフェも
その人影もまばらになっていった。
観光客向けに変わっていくダウンタウンに
ある人は追われるように去り、
地元の人は寄り付かなくなった。
再開発が進んで新しくてお洒落なバーが並んで
人は入れ替わり
観光客と学生で町は賑やかになった。
そんな中で客の消えたホンコン・カフェは営業を続けていた。
訪ねるのが半期ごとになってからも、
店がなくなってないか心配しながら
オープンの文字にほっとして入ったもんだ。

10年以上前のある日
他に客のいないホンコン・カフェでトカへと夕食をとってると
可愛らしい日本人観光客の女の子が二人元気よく入ってきて
立ち尽くしてから周りを見回して一言、
「ここ、違う」
そう言ってすぐ出て行った。
「そうだろう、違うだろう、ここは俺達が来るところだからな」
てことはその「俺達」が来れるところも
もうホンコン・カフェしかなかったってわけだ。

2005年ごろだったか
ナバホの家に帰ったとき、
ホンコン・カフェが75年の歴史に幕を閉じた
という記事が新聞に出たことを知らされた。
その町の時代の変遷を象徴する大きなニュースだったんだ。
where had my sweet downtown gone ?
もう僕らが行く店はなくなった。

いやまだサドル・ショップとブーツの修理屋は辛うじて残ってるし、
中心部から離れればまだ他にも残ってるはずだ。

というわけで
つづきがあったりする。
by cwdye | 2008-06-09 10:56 | episode エピソード
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